学校で教員をしていると、ある時期になると教育実習生がやってきます。
少し緊張した表情で職員室に入り、担当の先生の後ろについて校内を歩く実習生。
「今日から教育実習でお世話になります」
そんな挨拶を聞くと、自分が教育実習をしていた頃のことを思い出す先生もいるのではないでしょうか。
私自身も、教育実習を経験しました。
そして教員になってからは、今度は教育実習生を受け入れる側になりました。
そこで感じたのが、
「教育実習もずいぶん変わったな」
ということです。
もちろん、教員になるために学校現場を経験するという基本的な目的は、昔も今も変わりません。
しかし、私が教育実習をした頃と現在では、学校そのものが大きく変わっています。
今回は、元教員の立場から、昔の教育実習と現在の教育実習について振り返ってみたいと思います。
私の頃の教育実習は2週間だった
まず、私自身の経験から話したいと思います。
私が教育実習をした頃、実習期間は2週間程度でした。
大学で教職課程を学び、いよいよ学校現場へ行く。
それまで大学の講義で学んでいた「教育」が、実際の学校ではどのように行われているのか。
それを自分の目で見ることになります。
もちろん、実習生ですから、いきなり一人前の先生として仕事をするわけではありません。
担当の先生について授業を見学したり、教材研究をしたり、実際に授業をさせてもらったりします。
そして、実習期間の中で研究授業を行う。
これが当時の教育実習では大きなイベントでした。
指導案を書き、授業の流れを考える。
黒板に何を書くのかを考える。
どこで生徒に質問するのか。
どのような教材を使うのか。
そして実際に教壇に立つ。
今思い返しても、かなり緊張したものです。
ただし、教育実習の期間については、校種や年代によって制度上の違いがあります。
文部科学省の資料によると、現在の教育実習は、幼稚園・小学校・中学校の免許状では5単位、高等学校では3単位が必要で、期間の目安はそれぞれ4週間程度、2週間程度とされています。
教育実習そのものも時代とともに変化してきた
教育実習の単位数についても、実は過去に変更があります。
文部科学省の資料では、昭和29年には幼稚園・小学校が4単位、中学校・高校が2単位でした。
その後、平成元年の改正で幼稚園・小学校が5単位、中学校・高校が3単位となり、平成10年には現在につながる形の単位数になっています。
つまり、教育実習についても「昔から現在まで全く同じ」というわけではありません。
ただ、実際に大学生が何週間学校に行くのかについては、取得する免許の種類や大学・実習校の運用なども関係します。
そして大きな変化が「介護等体験」
私が昔、教員免許を取った頃には、現在のような「介護等体験」はありませんでした。
ところが、現在、小学校・中学校の教員免許を取得しようとする人には、原則として7日間の「介護等体験」が必要です。
この制度が始まったのは、
平成10年(1998年)4月1日
です。
1997年に「介護等体験特例法」が成立し、翌1998年4月1日から施行されました。
2026年から考えると、すでに約28年前です。
私たちの世代からすると「最近できた制度」という感じがするかもしれませんが、今の大学生にとっては、むしろ当たり前の制度になっています。
「介護実習」ではなく「介護等体験」
ここで一つ注意したいことがあります。
一般的には「介護実習」と呼ばれることがありますが、教員免許取得の制度上の正式な名称は、
「介護等体験」
です。
小学校・中学校の普通免許状を取得する場合、特別支援学校や社会福祉施設などで、原則7日間の体験を行います。
しかも、単に介護技術を学ぶための実習というわけではありません。
障害者や高齢者に対する介護・介助だけでなく、話し相手になったり、散歩の付き添いをしたり、施設の職員の仕事を補助したりするなど、幅広い体験が想定されています。
つまり、
「教員になるのに、なぜ介護?」
と思う人もいるかもしれませんが、介護そのものの専門家になるための制度ではありません。
さまざまな人と接する経験を通じて、教員としての資質を高めることを目的とした制度なのです。
7日間の介護等体験
現在の文部科学省の説明では、介護等体験は7日間です。
制度開始当初は、7日間の内訳について、
「社会福祉施設等5日間、特殊教育諸学校2日間」
とすることが望ましいとされていました。
現在では特別支援学校だけでなく、老人ホーム、障害者支援施設、児童養護施設など、さまざまな施設が対象になっています。
昔の教育実習しか知らない人からすると、
「教員免許を取るために、そんな体験まで必要なのか」
と驚くかもしれません。
しかし、これも現在の教員養成では重要な経験の一つになっています。
昔は「授業をする先生」というイメージが強かった
私が教育実習をした頃、教員という仕事を考えると、やはり中心にあるのは「授業」でした。
教育実習でも、
授業を見る。
授業をする。
指導案を書く。
研究授業をする。
という流れが大きな部分を占めていました。
もちろん、学級経営や生徒指導についても学びました。
しかし、現在の学校現場と比べると、教師の仕事の範囲は大きく変わっています。
今の教育実習生が見る学校はもっと複雑
現在の学校では、授業以外にもさまざまな仕事があります。
不登校への対応。
特別支援教育。
保護者対応。
生徒同士のトラブル。
学校行事。
部活動。
ICTを活用した授業。
そして、スマートフォンやSNSをめぐる問題。
私が教員になった頃には、少なくとも現在ほどスマートフォンやSNSが学校現場に入り込んでいませんでした。
現在の教育実習生は、こうした学校の姿を見ることになります。
「先生って授業をする仕事だと思っていた」
と思う学生がいても不思議ではありません。
実際には、授業は教員の仕事の一部にすぎません。
黒板とチョークからタブレットへ
教育実習の風景そのものも変わりました。
昔は黒板とチョーク。
教材はプリント。
必要な資料はコピー。
教師が黒板に板書し、生徒はノートに書く。
これが授業の基本的な風景でした。
今では、一人一台端末を使う学校も珍しくありません。
教師がデジタル教材を提示する。
生徒がタブレットで課題に取り組む。
資料や意見を共有する。
動画などを授業に取り入れる。
教育実習生も、こうした授業を見ることになります。
もちろん、ICTを使えば必ず良い授業になるわけではありません。
大切なのは、
「なぜこの道具を使うのか」
ということ。
昔は「黒板をどう使うか」が重要でした。
現在は、それに加えて「ICTをどう使うか」も考えなければならない。
教師に求められる授業力の中身も変わってきたのです。
教育実習生を見ていると「時代が変わった」と思う
教育実習生を受け入れる側になって、私は何度も「時代が変わったな」と思いました。
昔は、自分が教壇に立つだけで精一杯でした。
しかし現在の学校では、教師が考えなければならないことが増えています。
授業だけではありません。
生徒の生活背景。
不登校。
特別な支援。
保護者とのコミュニケーション。
ICT。
SNS。
さまざまな課題を抱えた子どもへの対応。
教員に求められるものは確実に広がっています。
だからこそ、現在の教育実習生には、授業だけではなく学校全体を見てほしいと思います。
教育実習は「先生になるかどうか」を考える機会
教育実習を終えた学生が、
「やっぱり先生になりたい」
と思うのは素晴らしいことです。
一方で、
「自分には違う仕事のほうが向いているかもしれない」
と思う人がいてもいいと思います。
教育実習は、教員になるための通過点であると同時に、
「自分はどんな仕事をして生きていくのか」
を考える機会でもあるからです。
実際に学校に入ってみなければ分からないことはたくさんあります。
授業の楽しさ。
生徒との関わり。
教師という仕事のやりがい。
その一方で、授業以外の仕事の多さ。
保護者対応。
生徒指導。
校務分掌。
学校組織の中で働くということ。
こうした現実を、ぜひ学生のうちに見てほしいと思います。
「教員になってから知る」のでは遅いこともある
私自身、元教員になった今だから思うことがあります。
教員という仕事について、もっと早くから「良いところ」だけではなく「大変なところ」も知っておけばよかった。
教育実習は、そのための貴重な機会です。
そして、現在の教育実習生には、さらに介護等体験という経験もあります。
私たちの頃にはなかったものです。
教育実習+介護等体験。
これだけでも、教員になるまでに経験することは昔とは違っています。
もちろん、制度が変わったからといって、昔より大変、今のほうが良いという単純な話ではありません。
社会が変われば、教師に求められるものも変わります。
教育実習生に伝えたいこと
もしこの記事を読んでいる人の中に、これから教育実習をする人がいるなら、私は一つだけ伝えたいと思います。
授業だけを見て帰らないでほしい。
職員室を見てください。
先生たちが授業以外に何をしているのか見てください。
朝から帰るまで、どんな仕事をしているのか。
生徒指導ではどんな対応をしているのか。
保護者とはどのように連絡を取っているのか。
学校行事の準備にはどれだけの仕事があるのか。
そして、自分がその仕事を10年、20年続けている姿を想像してみてください。
「やっぱり先生になりたい」
そう思うなら、それは素晴らしいことです。
逆に、
「ちょっと違うかもしれない」
と思ったとしても、それも大切な発見です。
教員免許を取ったからといって、必ず学校教員にならなければならないわけではありません。
教育の知識や経験を生かせる仕事は、学校以外にもあります。
転職という選択肢を調べてもいい。
資格を取ることを考えてもいい。
別の業界に目を向けてもいい。
大切なのは、学校という世界しか知らないまま、自分の進路を決めてしまわないことだと思います。
昔の教育実習と今の教育実習
私が教育実習をした頃は2週間程度。
そして現在は、免許の種類によって4週間程度、2週間程度などの目安があります。
さらに1998年からは、小・中学校の教員免許取得を目指す人には、原則7日間の介護等体験が加わりました。
こうして比べてみると、教員になるまでの道のりも少しずつ変化していることが分かります。
しかし、最後に学校現場で待っているのは、昔も今も「人」です。
子どもと向き合う。
同僚と一緒に働く。
保護者と関わる。
人を相手にする仕事であることは変わりません。
教育実習生を見ていると、
「この人たちは、これからどんな先生になるのだろう」
と思います。
同時に、
「自分にもこんな時代があったな」
と懐かしくもなります。
教育実習は、教員になるための単なる必修科目ではありません。
学校という職場を実際に見ることができる、貴重な「お試し期間」でもあります。
これから教員を目指す人には、ぜひ授業だけではなく、学校という職場全体を見てほしい。
そして、
「自分はこの仕事を続けていきたいのか」
をじっくり考えてほしいと思います。
教員になる。
教員にならない。
途中で別の道を選ぶ。
どの道を選んでも、自分の人生です。
教育実習で実際の学校を見た経験を、自分のこれからの人生を考える材料にしてほしい。
元教員になった今、私はそんなふうに思っています。

