「体調が悪いけれど、今日は休めない」
教員を経験した人なら、一度はこのように思ったことがあるのではないでしょうか。
朝起きた時から喉が痛い。熱っぽい。体がだるい。頭が重い。
普通の職場であれば、「今日は体調不良なので休みます」と連絡して、休養することも選択肢になります。
しかし、学校現場では簡単には休めません。
なぜなら、そこには「授業」があり、「生徒」がいて、「担任」という責任があるからです。
特に担任を持っている教員の場合、「自分が休んだら誰がクラスを見るのか」「生徒たちはどうなるのか」という思いが先に立ち、無理をして出勤してしまうことも少なくありません。
教員は体調不良でも出勤してしまう
学校という場所は、多くの人が毎日集まる場所です。
数百人、場合によっては千人近い生徒や教職員が同じ建物内で生活しています。
そのため、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症が広がりやすい環境でもあります。
本来であれば、感染症の疑いがある場合や体調が悪い場合には、しっかり休んで回復することが大切です。
しかし、現場の教員には、
「授業を止めるわけにはいかない」
「代わりの先生がいない」
「学級を空けるわけにはいかない」
という責任感があります。
その結果、多少の発熱や体調不良であれば、薬を飲んで出勤するというケースも珍しくありません。
もちろん、教員自身も生徒に感染させたいと思っているわけではありません。
むしろ、生徒のことを考えているからこそ、無理をしてしまうのです。
しかし、結果として感染を広げてしまう可能性もあります。
「休まないことが責任感のある行動」
そんな考え方が、学校現場にはまだ残っているのではないでしょうか。
授業に穴を開けられないというプレッシャー
一般企業であれば、担当者が休んだ場合、同じ部署の人が仕事を引き継ぐことがあります。
しかし、学校の場合、教員一人一人が専門的に授業を担当しています。
数学の先生が国語の授業をする。
体育の先生が専門外の授業を毎日担当する。
もちろん可能な場合もありますが、継続的には難しいものがあります。
さらに担任の場合は、授業だけではありません。
朝の会、帰りの会、生徒指導、保護者対応、提出物の確認、行事準備など、多くの仕事があります。
そのため、担任を持つ教員ほど「簡単には休めない」という気持ちが強くなります。
「明日一日休んだら、クラスは大丈夫だろうか」
そう考えると、体調が悪くても職場へ向かってしまうのです。
病気休暇が使いやすい制度になっているのか
教員には年次有給休暇とは別に、病気休暇などの制度があります。
本来であれば、病気になった時には安心して利用できる制度であるべきです。
しかし、現場では病気休暇を取得するハードルが高いと感じている教員もいます。
自治体によっては、短時間の病気休暇であっても診断書の提出を求められる場合があります。
例えば、たった1時間だけ体調不良で休みたい場合でも、医師の診断書が必要になるケースがあります。
もちろん、制度を適正に運用するためには一定のルールが必要です。
しかし、現場の感覚としては、
「病気で休むために、さらに病院へ行って自費で診断書をもらわなければならない」
という負担感があります。
その結果、多くの教員は病気休暇ではなく、有給休暇を使って休むことになります。
本来は病気による休みであるにもかかわらず、自分の大切な休暇を消費しているのです。
有給休暇は「休むための権利」である
もちろん、有給休暇を使うことは悪いことではありません。
休暇は労働者に認められた大切な権利です。
しかし問題なのは、「病気になった時の休み」と「自分自身のための休み」が同じ枠になってしまうことです。
教員も人間です。
家族との時間を過ごしたい時もあります。
趣味を楽しみたい時もあります。
心身の疲れを取るために休みたい時もあります。
そのための有給休暇が、風邪や体調不良によって消えていく状況は、長く働き続ける上で大きな負担になります。
学校こそ健康管理を重視する職場であるべき
学校は、生徒に健康や生活習慣の大切さを教える場所でもあります。
だからこそ、そこで働く教員自身が健康を大切にできる環境である必要があります。
「先生なのだから我慢するのが当たり前」
「子どものためなら多少の無理は仕方ない」
こうした考え方だけでは、これからの学校現場は持続できないのではないでしょうか。
教員が無理をして倒れてしまえば、結果的に一番困るのは生徒です。
安定した教育を続けるためには、教員が健康な状態で働ける仕組みが必要です。
休みやすい学校は、生徒にとっても良い学校になる
病気休暇を取りやすくすることは、教員を甘やかすことではありません。
むしろ、教育の質を守るために必要なことです。
体調不良の教員が無理をして授業をするよりも、しっかり休んで回復した教員が戻ってくる方が、生徒にとっても良い環境です。
また、感染症の拡大防止という意味でも重要です。
学校は多くの人が集まる場所だからこそ、「休むことができる文化」が必要なのです。
元教員として思うこと
私自身、教員として働いていた頃、本当に具合が悪く、「休みたいけれど休めない」という場面を何度も見てきました。
真面目な先生ほど、自分よりも生徒や周囲の先生のことを優先してしまいます。
しかし、その優しさや責任感だけに頼る仕組みでは、教員の負担は減りません。
これから教員を目指す人が減少している中で、必要なのは精神論ではなく、安心して働ける環境づくりです。
体調が悪い時には休む。
必要な時には医療機関を利用する。
そして、安心して職場に戻ることができる。
当たり前のようですが、その当たり前が学校現場ではまだ十分ではないのかもしれません。
教員が健康で働き続けられる環境を整えることは、未来の子どもたちの教育を守ることにもつながります。
「休めない職場」から「安心して休める職場」へ。
学校には、そんな変化が求められているのではないでしょうか。

